2024.05.29News
5月28日というアドラーにとっての特別な日に、朝ドラ「虎に翼」に『問題児の心理』の表紙が映し出されました。
◆以下はヒューマン・ギルド代表、岩井俊憲が2024年5月29日のblogに書いた内容を掲載いたします。
アドラー心理学に基づく勇気づけの研修(外部研修も)とカウンセリングを行う ヒューマン・ギルド の岩井俊憲です。
1.NHK連続テレビ小説「虎に翼」でアドラーの『問題児の心理』がアップで写し出されてたことが話題になっています(写真の提供:大田原恵美さん)。
5月28日アドラーの没年の月日(命日)であったこともあって、今後のドラマの展開予想と重なり大きな話題となっています。
なんだかアドラーがもう一回私を思い起こせよとNHKに働きかけたような気持ちがしてなりません。
この本にまつわる話を日本一詳しく解説します。
■「虎に翼」敢えてアップで映したアドラー本 今後の寅子の伏線か?ネットも注目【ネタバレ】
https://news.yahoo.co.jp/articles/
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このことについて私は徹底的に調べてみました。
若干の推測を交えてお伝えできることは、次の通りです。
映し出された本はアドラーの『問題児の心理』で、昭和16年(1941年)に刀江書院から出版されていた本であることがわかりました。
このことについて2つの柱でお伝えます。
(1)訳者の高橋堆治氏について
(2)この本の原題について
(1)訳者の高橋堆治氏について
訳者の高橋堆治氏について『子どもの劣等感―問題児の分析と教育』 (1962年、誠信書房、原著"The Education of Children")の著者プロフィールには、こんなことが書いてありました。
早稲田大学文学部社会哲学科卒。
アメリカのオレゴン大学大学院で社会問題を研究。
その後小学校教員、『教育時論』記者、東京府立第一高女高等科講師(心理学および哲学担当)。
アメリカのオレゴン州ポートランド市日本語学校校長。
その他川崎重工、米陸軍職員などに勤務。
私は、彼の訳書『問題児の診断と治療』(1973年、川島書店、原著"The Pattern of Life",日本語訳は『アドラーのケース・セミナー』岩井俊憲全訳、一光社、『子どものライフスタイル』岸見一郎部分訳、アルテ)の一部にこういう言葉を見つけて深い感銘を受けました。
《訳者は昭和8年(1933年)12月アドラー教授の示唆に従い、小学校・高等女学校の男女生徒1,123人について一集団内における左ききの児童の百分率を求めてみた。その結果、任意の集団中、アドラー教授の方法によって、先天性の左きき児童と判定すべき者は実に35.7%から36.9%に上ることがわかった。・・・・その詳細を『東京教育』昭和9年2月号に発表した》
1933年当時は、アドラーがアメリカで活躍していた時期で、日本人の高橋堆治氏がアメリカでアドラーの指導を受け、さらにはアドラーの本を昭和16年(1941年)に訳していたことに感銘を受けました。
高橋氏は、年代順にその後、『問題児の心理』(1959年) 、『子どもの劣等感―問題児の分析と教育(1962年)、『問題児の診断と治療』 (1973年)の翻訳・出版に従事していたことになります。
市井の心理学者が学会にも所属せず、一人でコツコツと研究を重ねていたり、翻訳をしていたことを知ることで、アドラーから直接指導を受けた高橋氏の使命感を受け取ることができました。
戦前・戦中・戦後にかけて、これだけアドラーに心酔していた人がいたのですね。
(2)この本の原題について
次に、この本の原題は”The Education of Children”として出版され、日本では『子どもの教育』(岸見一郎訳、アルテ)として知られている本だと推測されます。
『問題児診断と治療』の「はじめに」に高橋さんが書いていることを読むとこんなこと書いてあります。
《アドラーの著書の中の双子とも言うべきものの1つである『子どもの教育』を和訳して、これを紹介してから訳者は続けて他の1つである本書を世に紹介したいという願いを持った》
から始まって、
《しかし翻訳獲得のための手続きで原書を見つけようとしていたけれども、見つけられなかった。・・・・ところが平凡社の『世界大百科事典』でアドラーの項を執筆しておられた東大文学部心理学教室の八木教授のご援助によって、東大の教育学部の図書室にあることがわかってそれをお借りし訳すことができた》
高橋氏は『子どもの教育』を『問題児の心理』のタイトルで戦前に和訳し、その後『子どもの劣等感―問題児の分析と教育』(1962年)として訳し直していたことがわかります。
さらには、時間をかけて『問題児の診断と治療』などの翻訳に従事したことに高橋氏の執念を感じます。
5月28日というアドラーにとっての特別な日にNHKの朝ドラ「虎に翼」でアドラーの本が映し出されたこと、アドラーに直接指示していた日本人がいたことについて、アドラー心理学を学び、伝え続けている私にとって何だか運命的なものを感じた日でした。
◆岩井のブログもご参照ください。
アドラー心理学による勇気づけ一筋40年 「勇気の伝道師」 ヒューマン・ギルド岩井俊憲の公式ブログ (goo.ne.jp)